CRM Letter

マーケターが社交ダンサーに学ぶ「勝つための仕組み」

作成者: Sanshiro Nakano|2025/09/25 3:32:58

皆さん、こんにちは。トライエッジの代表、中野です。

突然ですが、「社交ダンス」と「マーケティング」に意外な共通点があると言われたら、どう思いますか?

 

一見、全く異なる世界に見える両者。しかし、その本質を紐解いていくと、ビジネスパーソンが学ぶべき「勝つための仕組み」が数多く隠されていました。

今回は、弊社の社員でありながら、競技ダンサーとして情熱を燃やす向佐さんをお招きし、その魅力と、ビジネスにも通じる奥深い戦略について、存分に語っていただきました。

専門分野以外の「熱中」が、いかに仕事や人生を豊かにするのか。そのヒントが、この記事には詰まっています。

 

 
 
 
執筆者:中野 三四郎 人材派遣会社に新卒入社後、一貫してマーケティング部門に従事。営業戦略の立案、SFA / CRMの企画開発・運用、顧客分析などを行う。 その後、M&Aコンサルファームやメーカーの営業企画などを経て、株式会社トライエッジを設立。
青山学院大学 国際マネジメント研究科 卒
著書:「営業は仕組みで9割決まる-「仕組み」で常勝営業チームをつくる方法 Udemyで3千名の受講生にマーケティングの入門講座を提供

 

 

 
 
 
 

 

 
 
 
執筆者:向佐 望 2021年に株式会社トライエッジに新卒入社。スタートアップ企業や中小企業をメインにCRM/SFA・MAの構築/運用支援・データのメンテナンス等に従事。

 

きっかけは母の一言。「一緒にやるなら」から始まったダンスの世界

 

中野

本日はよろしくお願いします。早速ですが、僕も含めて多くの読者がまず気になるのが、「なぜ社交ダンスを?」という点です。向佐さんが社交ダンスにハマった、最初のきっかけから教えていただけますか?

 

向佐

はい、よろしくお願いします。実は、きっかけは私の母なんです。母が「社交ダンスを始めたい」と言い出したのですが、「一人で行くのは嫌だから」と、一緒にくっついていったのが始まりでした。

 

中野

お母様がきっかけだったんですね。何か親子で習い事をしたい、という思いがあったのでしょうか?

 

向佐

そうなんです。母が子育て中に近所の駒沢公園を散歩していた時、たまたま会場で社交ダンスの大きな大会が開催されているのを見たそうなんです。その光景がすごく印象に残っていたらしくて、「いつかやりたい」という気持ちがあったみたいですね。

 

中野

なるほど。でも、正直なところ、社交ダンスって少し敷居が高いイメージがありませんか?「私、運動神経が…」みたいに躊躇する人も多そうです。向佐さん自身、ダンスは得意だったんですか?

 

向佐

いえ、むしろ逆で、私、ダンスは本当に嫌いだったんです。中学校の創作ダンスとか、振り付けを覚えるのがとにかく苦手で…。

 

中野

え、それは意外です! 振り付けが苦手なのに、なぜ社交ダンスは続けられたんでしょう?

 

向佐

社交ダンスにも振り付けはあるのですが、根本的に少し違うんです。いわゆる「歌に合わせて踊る」のとは違って、体の「軸」を意識して踊るスポーツなんですね。一つの軸さえしっかり持っていれば、体が自然と、流れるように動いてくれる。一つできれば、その流れに乗って他の動きも連動していく感覚です。

どちらかというと、分類としてはバレエなどに近い「芸術スポーツ」という側面が強いんですよ。

 

「力を抜く」ポジショニング。競合と差別化する自分たちだけの戦略

 

中野

なるほど、体の使い方が根本的に違うんですね。ここから少し、ビジネスの視点を交えて伺っていきたいのですが、マーケティングの世界では「ポジショニング」という考え方が非常に重要です。競合他社と自分たちを比較して、「自分たちはどの立ち位置で戦うか」を明確にする戦略ですね。

向佐さんも競技会に出場されていますが、他のカップルと自分たちを比較して「あのカップルは表現力が強みだから、うちは技術の正確性で勝負しよう」といった戦略を考えたりはするのでしょうか?

 

向佐

まさに、それに近い考え方はあります。私たちのカップルがコンセプトにしているのは、「力を抜いて、リラックスした状態で踊る」ということです。

 

中野

力を抜く、ですか。普通は「力を込めて!」となりそうなものですが。

 

向佐

そうなんです。でも、どんな物事でも、力むと逆に力ってうまく出せなかったりしますよね。それと同じで、リラックスした状態の方が、自分が持っている身体能力を100%引き出せると考えているんです。私たちカップルが師事している先生の考え方でもあり、根幹にあるコンセプトですね。

 

中野

その「リラックスした動き」は、審査員に評価されるものなんですか?

 

向佐

そこが面白いところで、社交ダンス、特にスタンダード(ボールルーム)という種目では、身長が高いカップルが有利とされています。私たちカップルはそこまで身長が高くないので、普通に踊ると見劣りしてしまう可能性がある。

ですが、身体能力を最大限引き出すことで、一つ一つの動きが大きくなるんです。身長の不利を、軸に乗って大きく動くことでカバーする。力が抜けているからこそ、形を崩さずにダイナミックな踊りができる。それが私たちの戦略です。

最高のチームは「比較しない」。パートナーシップから学ぶ組織論

 

中野

身長という物理的な不利を、コンセプトと技術で乗り越える。まさに戦略ですね。次に「チームビルディング」の観点からも伺いたいです。社交ダンスはパートナーとの連携が全てだと思いますが、これは仕事におけるチームでの動き方にも通じるものがあると感じます。パートナーシップを築く上で、大切にしていることは何ですか?

 

向佐

「比較しない」ことです。

 

中野

比較しない。それは、他のカップルと、という意味ではなく?

 

向佐

はい、自分と相手を比較しない、という意味です。私は女性で、リーダーは男性。性別も違えば、体格も、元々持っている能力も全く違います。また、役割も責任も違うのに、「自分はできているのに、なぜ相手はできないんだ」と比較しても何も生まれない。

比較した瞬間に意識が相手に移って、自分の軸がぶれてしまうんです。だから、自分がやるべきことに集中する。自分がちゃんとできていれば、相手も自然とそれに合わせてくれる、という信頼関係がベースにあります。

 

中野

これは仕事でも全く同じことが言えますね…。自分の得意なことと、相手の得意なことは違う。それを認め合った上で、どう組み合わせるかが重要です。とはいえ、練習していると意見がぶつかることもあるんじゃないですか?

 

向佐

もちろん、あります。その時に重要になるのが「譲り合い」の精神です。社交ダンスは「紳士淑女のスポーツ」とよく言われるのですが、まさにその通りで。自分の主張ばかりではなく、相手をうまく踊らせてあげる、相手を一番に考えるというマナーが求められます。ムカつくこともありますけど(笑)、でも最後は「これは譲り合いのスポーツだから」と自分に言い聞かせます。

 

大会はKGI、練習はKPI。目標達成を支える日々のPDCAサイクル

 

中野

紳士淑女のスポーツ、良い言葉ですね。ビジネスで言うところの「リスペクト」に近い感覚でしょうか。

さて、競技会で良い成績を収めるというゴール(KGI)がある中で、日々の練習、つまりKPIはどのように設定しているんですか?「腕立てを10回から20回に増やす」みたいな、具体的な数値目標を立てたりするのでしょうか?

 

向佐

そこまで細かくは設定していませんが、無意識にPDCAサイクルを回している感覚はありますね。大会が終わると、各種目の評価がフィードバックとして返ってくるんです。その結果を見て、「次の大会までに、この評価が低かった種目を改善しよう」と、短期的な目標を立てます。

 

中野

その「改善」とは、具体的にどんなことをするんですか? 練習時間を増やすとか、筋トレをするとか?

 

向佐

私の場合は、筋トレというよりは、「意識して動かせる体の部位を増やす」「体の可動域を広げる」という改善に取り組みます。というのも、ダンスで使う筋肉と、いわゆる筋トレでつく筋肉は、実は違うことが多いんです。

なので、特別なトレーニング時間を設けるというよりは、日常生活の中で常に体の使い方を意識しています。

 

中野

日常生活、ですか。

 

向佐

はい。例えば、歩く時にかかとから着地できているか、その時ふくらはぎの筋肉はどれくらい使っているか、とか。

腕を上げた時に、筋肉ではなく腕そのものの重さをどこまで感じられるか、とか。

24時間、自分の体と向き合うことで、本番のたった数分間で最高のパフォーマンスが出せるように準備する、という感覚です。

 

「まっすぐ立つ」だけで勝負する。究極のセルフブランディング術

 

中野

24時間自分の身体と対話する…。アスリートの世界ですね。次に「セルフブランディング」についても伺いたいです。フロアに立った時の立ち居振る舞いや衣装、表情なども、審査員への印象を左右する重要な要素だと思います。自分たちのカップルをどう見せたいか、という演出は意識しますか?

 

向佐

ものすごく意識します。特に重要なのが、入場の瞬間の「立ち方」です。私たちは、とにかく「まっすぐ立つ」ことで、他のカップルとの差別化を図っています。

 

中野

まっすぐ立つ。シンプルですが、奥が深そうですね。まっすぐ立つと、審査員からはどう見えるものなんでしょう?

 

向佐

「浮いてるように見える」んです。

 

中野

浮いてるように?

 

向佐

はい。よく例えられるのが、2〜3歳の子どもの立ち方です。あの子たちは、筋力ではなく、軸(バランス)だけで立っていますよね。不安定なようでいて、転びそうになると自然に足が出る。あれが、体が自由に動けている状態なんです。

大人になると、安定させようと体に力を込めてしまいますが、それは逆に体の可動域を狭めている。私たちは、あの子どもたちのように、軸だけで自由に動ける体を目指しています。その結果、重力から解放されたような、浮いているような印象を与えることができるんです。

 

中野

なるほど…!「軸が動いたから、体が動いた」という、先ほどの話に繋がりますね。審査員には、最終的にどんなカップルだという印象を持ってもらいたいですか?

 

向佐

そうですね。「型にはまって踊っている」のではなく、「すごく自由に、楽しそうに踊っているな」と感じてもらえたら、それが最高の評価です。

ダンスが教えてくれた「他者理解」。仕事と人生を豊かにする学び

 

中野

今日お話を伺って、社交ダンスがいかに戦略的で、奥深い世界かがよく分かりました。こうした経験は、向佐さん自身の仕事や考え方に何か良い影響を与えていますか?

 

向佐

はい、人との距離感については、ものすごく勉強になりました。ダンスは、自分だけでは成立しません。相手がいて、自分がいる。お互いに与え合う、まさにギブアンドテイクの世界です。

それに、人ってそれぞれ「自分の中の正しさ」を持っていますよね。それを否定するんじゃなくて、「この人はこういう考えを持っているんだ」と一度受け入れて、理解した上で共存する。その大切さをダンスから学びました。

 

中野

素晴らしいですね。まさに、どんな仕事にも通じる本質だと思います。最後に、これから社交ダンスを始めたい、あるいは何か新しいことに挑戦したいと思っている読者に向けて、メッセージをお願いします。

 

向佐

とにかく、難しく考えずに一度体験してみてほしいです。私がそうだったように、ダンス経験がなくても全く問題ありません。何より「踊ることを楽しむ」という気持ちさえあれば、きっと続けられます。大会に出るだけが全てではなく、レッスンで先生と会話しながら上達を目指すのも、とても楽しいですよ。まずは「楽しい」と思えるかどうか。ぜひ、その一歩を踏み出してみてほしいです。

 

まとめ

 

向佐さん、本日は貴重なお話をありがとうございました。

「力を抜く」「比較しない」「譲り合う」「まっすぐ立つ」。

インタビューを通じて語られたこれらの言葉は、社交ダンスの技術論であると同時に、普遍的なビジネス哲学、そして人生哲学そのものでした。

 

一つのことを突き詰める中で得られる学びや思考のフレームワークは、必ず他の分野にも応用できる。向佐さんの姿は、私たちにそのことを改めて教えてくれます。

 

この記事を読んでくださった皆さんも、仕事とは直接関係のない「熱中できる何か」を探してみてはいかがでしょうか。その経験が、あなたの視野を広げ、ビジネスパーソンとして、そして一人の人間として、あなたをさらに成長させてくれるはずです。