CRM Letter

友人の婚活を「マーケティング思考」でプロデュースしたら、結婚式の新郎挨拶で泣きそうになった話

作成者: Sanshiro Nakano|2025/09/10 2:56:02

先日、一人の友人が結婚した。
経営者仲間として、苦しい時も楽しい時も共有してきた大切な友人だ。


結婚式の招待状を受け取った時も嬉しかったが、当日、彼の隣で幸せそうに微笑むパートナーの姿を見て、私は胸がいっぱいになった。なぜなら、僭越ながら、その出会いのきっかけを作ったのは、何を隠そうこの私だったからだ。


「恋愛の達人だったんですか?」と思われるかもしれないが、全く違う。私がやったのは、恋愛テクニックの伝授ではない。
ビジネスで成果を出すために使っている、ごく当たり前の「マーケティング戦略」を、彼の婚活にフル活用しただけなのだ。
これは、経営者仲間から「結婚したい」という切実な相談を受け、ランチをご馳走になる代わりに本気の婚活コンサルティングを実施し、見事ゴールインまで伴走した、ちょっと不思議な成功譚である。

 

 

 
 
 
執筆者:中野 三四郎 人材派遣会社に新卒入社後、一貫してマーケティング部門に従事。営業戦略の立案、SFA / CRMの企画開発・運用、顧客分析などを行う。 その後、M&Aコンサルファームやメーカーの営業企画などを経て、株式会社トライエッジを設立。
青山学院大学 国際マネジメント研究科 卒
著書:「営業は仕組みで9割決まる-「仕組み」で常勝営業チームをつくる方法 Udemyで3千名の受講生にマーケティングの入門講座を提供

 

発端はランチミーティング。「どうしたら結婚できる?」という名の経営相談

ある日の昼下がり、友人であり経営者仲間でもある彼とランチをしていた時のことだ。仕事の話が一通り落ち着くと、彼は少し深刻な面持ちで切り出した。
「中野さん、俺、本気で結婚したいんだけど、どうしたらいいか全然わからないんだよね…」


聞けば、これまでも何度か婚活を試みたものの、うまくいかない。アプリを使っても、良い出会いどころか、メッセージのやり取りすら続かない。

彼は、真面目で人柄も良く、経営者として自分の城を築き、経済的な基盤も申し分ない。傍から見れば、結婚相手として非常に魅力的なはずだ。


「商品は良いのに、全く売れていない」。これは、多くの企業が抱える悩みと全く同じ構造ではないか。


私は、海鮮丼を頬張りながら直感した。これは、もはや恋愛相談ではなく、一個人の市場価値を最大化するための「マーケティング課題」だ、と。


「わかった。その悩み、俺が解決しよう。ただし、条件がある。今日のランチは君の奢りだ。その代わり、俺は君をクライアントと見なし、本気でコンサルティングする」


こうして、前代未聞の「婚活マーケティング・プロジェクト」が、ランチの席でキックオフされたのである。

 

【Phase1】 戦略なき戦いはしない。まずは徹底的な現状分析から

ビジネスで成果を出す鉄則は、行動する前に現状を正しく把握することだ。

思い付きや精神論で動いても、リソース(時間、お金、そして精神力)を無駄にするだけである。

私は、彼という「商品」を売り出すために、まず基本のフレームワークである「3C分析」から着手した。

 

3C分析:自分と市場とライバルを知る

3C分析とは、自社(Company)、顧客(Customer)、競合(Competitor)の3つの視点から市場環境を分析する手法だ。

 

これを今回の婚活プロジェクトに当てはめると、こうなる。

・Company(自社) → 彼自身
・Customer(顧客) → ターゲットとなる女性
・Competitor(競合) → 他の婚活男性

私たちは、カフェに場所を移し、ノートPCを開いてこの3つの要素を徹底的に洗い出していった。

  1. Company(彼自身)の分析:まず、彼自身という「商品」のスペックを客観的に棚卸しした。
    ・年齢:30代半ば
    ・職業:会社経営者(安定した経済基盤)
    ・性格:温厚、誠実、聞き上手
    ・外見:清潔感がある、爽やか
    ・趣味:読書、キャンプ
    ・課題:自分からガツガツいけない「受け身」な性格、押しが弱い
  1. Customer(ターゲット女性)の分析:次に、「どんな女性と結婚したいか?」をヒアリングした。しかし、重要なのはそれだけではない。「どんな女性なら、彼という商品を高く評価してくれるか?」という視点だ。彼の「誠実さ」や「経済的な安定」を魅力に感じ、かつ彼の「受け身」な部分を補ってくれる、あるいはそれを好意的に受け止めてくれる女性はどんな人だろうか?

  2. Competitor(競合)の分析:婚活市場という戦場には、無数のライバルがいる。高年収のサラリーマン、容姿端麗なモデル、話術に長けた営業マン…。彼らと同じ土俵で、同じ戦い方をしていては埋もれてしまう。彼らにはない、友人だけのユニークな価値(UVP: Unique Value Proposition)は何かを考える必要があった。

SWOT分析:強みを活かし、弱みを克服する戦略を描く

3C分析で洗い出した情報を元に、次に「SWOT分析」を行った。彼の内外の環境を「強み(Strengths)」「弱み(Weaknesses)」「機会(Opportunities)」「脅威(Threats)」に分類し、具体的な戦略の方向性を定めるためだ。

 

強み (S):清潔感、誠実な人柄、経営者としての経済的基盤と自立性。
弱み (W):押しが弱い、恋愛において受け身、アピールが下手。
機会 (O):経済的な安定や誠実さを求める女性層は確実に存在する。アプリの普及により出会いの母数は増えている。
脅威 (T):婚活アプリには多数の競合が存在。彼の良さが伝わる前に「草食系」としてスルーされるリスク。

この分析から見えてきた戦略の核は、こうだ。

 

「彼の『強み』である誠実さや経済的基盤を正しく評価してくれ、かつ彼の『弱み』である受け身な性格を補ってくれる女性層にターゲットを絞り、効率的にアプローチする」

 

闇雲に矢を放つのではなく、勝てる戦場を見極め、そこにリソースを集中投下する。ビジネスも婚活も、戦略の基本は同じである。

 

【Phase2】 誰に、何を、どう届けるか。具体的な実行計画の策定

分析によって進むべき道筋が見えたら、次はいよいよ具体的なアクションプラン、「4P戦略」の策定だ。4Pとは、Product(製品)、Price(価格)、Place(流通)、Promotion(販促)の4つの要素を指す。

 

1. Product(製品戦略):彼自身の魅力を再定義し、パッケージ化する

彼の「製品」価値を最大化するために、見せ方を徹底的にチューニングした。

プロフィールの言語化:彼の弱みである「受け身」は、「穏やか」「聞き上手」「相手の意見を尊重する」という言葉に変換。「経営者」という強みも、「会社をやっています」という直接的な表現ではなく、「仲間と目標に向かって頑張ることが好きです」といった、謙虚だが熱意の伝わる表現を一緒に考えた。
写真の見直し:プロのカメラマンにプロフィール写真の撮影を依頼。清潔感と人の良さが伝わる、自然な笑顔の写真を複数パターン用意した。

 

2. Place(流通戦略):ターゲットがいる場所に商品を置く

どこで出会いを求めるか。私たちは、彼のターゲット層(後述するが、「少し年下で、自らも積極的にコミュニケーションを取ってくれるタイプ」に設定)が多く利用しており、かつ彼のプロフィールが埋もれにくい婚活アプリを2つに絞り込んだ。チャネルを絞ることで、運用の手間とコストを最適化する狙いだ。

 

3. Price(価格戦略):時間と労力の投資計画

ここでのPriceは、彼が投下する時間と労力、そして月々のアプリ利用料だ。目標達成までの期間を仮に半年と設定し、そこから逆算して日々の活動量を決めた。

 

4. Promotion(販促戦略):出会いを創出し、関係を育むコミュニケーション設計

これが、今回のプロジェクトの肝だった。

ターゲットの再設定(STP分析):SWOT分析の結果を踏まえ、メインターゲットを「少し年下で、男性に頼るだけでなく、自らも関係を築こうと積極的に動いてくれるタイプの女性」に定めた。「受け身」な彼にとって、相手がリードしてくれる方が心地よい関係を築ける可能性が高いと考えたからだ。年齢を少し下に設定したのは、彼の経済的な安定感がより魅力的に映る可能性を考慮したためだ。
KPI(重要業績評価指標)の設定:行動の基準を明確にするため、具体的なKPIを設定した。
└「1日に最低20件、新規で『いいね!』やメッセージを送る」
これは、質よりまず量を担保するためのKPIだ。数をこなすことで、どんなプロフィールやメッセージが響くのかというデータが蓄積され、徐々に精度が上がっていく。

コミュニケーション設計
初期アプローチ:嫌味なく「経営者」という強みを伝えるフレーズを用意した。「普段は仕事で決断することが多いので、プライベートでは相手の意見を聞くのが好きなんです」といった一言は、彼の「聞き上手」という強みと「受け身」という弱みを同時にポジティブに伝えることができる。
会話の型化:相手のプロフィールをしっかり読み込み、共通点や興味を持った点を具体的に質問する、という基本動作を徹底。ガツガツせず、落ち着いた丁寧な口調で、誠実なコミュニケーションを心がけるようアドバイスした。
メンタル設定:最も重要視したのがメンタルだ。「これは営業活動だ。100件アプローチして1件返信があれば上出来。断られても、それは君が否定されたわけじゃない。ただニーズが合わなかっただけ。一喜一憂せず、淡々とKPIをこなそう」と、何度も伝えた。

 

【Phase3】 実行、そして奇跡のゴールイン

コンサルティングから数週間後、彼は設定したKPIを愚直に守り、日々アプリでアプローチを続けた。最初は返信率の低さに落ち込むこともあったようだが、週に一度の「定例ランチミーティング」で進捗を確認し、改善点を話し合うことで、徐々に手応えを掴んでいった。


そして、プロジェクト開始から約3ヶ月が経った頃。 「中野さん、すごく話の合う人が見つかりました」 彼からの弾んだ声の報告は、今でも忘れられない。


出会った女性は、まさに私たちが設定したターゲット像そのものだった。明るく、自分の意見をしっかり持っていて、彼の穏やかな性格を「一緒にいて安心する」と評価してくれた。
二人の交際は順調に進み、その1年後、彼はプロポーズに成功。そして先日、冒頭の結婚式を迎えたのだ。


披露宴の終盤、彼はマイクを握り、新郎の挨拶でこう言った。 「そして、僕たち二人を引き合わせてくれた、キューピッドがいます。友人であり、私の人生のコンサルタントでもある、中野さんです」


不意に名前を呼ばれ、スポットライトを浴びた私は、驚きと照れと、そしてどうしようもないほどの嬉しさで、危うく涙がこぼれそうになるのを必死で堪えた。

結論:マーケティングは、人生を豊かにする「思考の武器」である

友人の婚活を手伝ったこの経験は、私に大きな確信を与えてくれた。


マーケティングとは、単にモノを売るためのビジネススキルではない。それは、目標を達成し、人生をより豊かにするための、極めて強力な「思考の武器」である、と。


自分という存在を客観的に分析し、進むべき道を見定め、具体的な計画に落とし込み、行動し、改善していく。このプロセスは、ビジネスも、ダイエットも、そして婚活も、すべてに共通する成功法則だ。


もしあなたが今、何か達成したい目標があるにもかかわらず、何から手をつけていいか分からずにいるのなら。一度、あなた自身の「3C分析」から始めてみてはいかがだろうか。


あなたという素晴らしい商品を、最高の形で、それを本当に求めている人に届ける。その戦略を描くのは、他の誰でもない、あなた自身なのだから。