起業を目指す皆さまへ~畑違いの僕らが学童保育で起業したリアル②~

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こんにちは!トライエッジ代表の中野です。
新しい事業を立ち上げるとき、皆さんは「やりたいこと」と「できること」、どちらを優先しますか?
理想を追い求める情熱も、現実的なスキルや経験も、どちらも成功には欠かせません。しかし、もしそのバランスが崩れたとしたら…?

これは、「何をするか」も決めずに走り出した私たちトライエッジが、創業期に「やりたいこと」を優先して事業に挑み、そして盛大に壁にぶつかった物語。
トライエッジ創業ストーリーの第二弾は、そんな私たちの苦く、そして学びの多かった原点のお話です。

 

第一弾はこちらから。

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執筆者:中野 三四郎 人材派遣会社に新卒入社後、一貫してマーケティング部門に従事。営業戦略の立案、SFA / CRMの企画開発・運用、顧客分析などを行う。 その後、M&Aコンサルファームやメーカーの営業企画などを経て、株式会社トライエッジを設立。
青山学院大学 国際マネジメント研究科 卒
著書:「営業は仕組みで9割決まる-「仕組み」で常勝営業チームをつくる方法 Udemyで3千名の受講生にマーケティングの入門講座を提供
※このブログは、以前別サイトに載せていた内容をバージョンアップしたものです。

創業ストーリー②|最高の学童を作ったはずが…オープン目前、僕たちが味わった最初の絶望

そもそも学童保育とは、小学生を放課後や夏休みといった長期休暇中にお預かりする施設のことです。
一般的には市区町村が運営する「公設学童」が主流で、私たちのような民間企業が参入する余地は少ないように思われます。

しかし、その公設学童には、働く保護者の方々にとって見過ごせない課題がありました。

最大の課題は「お預かり時間」の短さ。

多くの公設学童は、18時頃には閉まってしまいます。保育園では当たり前になった延長保育も、学童ではまだまだ普及していません。
18時に子どもが施設を出るとなると、保護者は遅くとも18時半には帰宅している必要があります。

都心でフルタイム勤務をしていたら、定時ダッシュでも間に合わない…。
そんな悲鳴にも似た声が、あちこちから聞こえてくるようでした。
この「小1の壁」とも呼ばれる社会課題を解決するため、民間学童は21時、22時といった遅い時間までの預かりを可能にし、公設との差別化を図っていたのです。

もう一つの課題は「教育プログラム」の不足。

公設学童は、どうしても「子どもたちを安全に預かる」という託児機能がメインになりがち。
付加価値の高い教育プログラムを提供する余裕まではなく、子どもたちはただ時間を過ごすだけ…というケースも少なくありませんでした。

ならば、私たちはその両方を解決しよう。

「夜遅くまで、安心して子どもを預けられる」
「施設にいる時間で、質の高い学びも得られる」

基本的な学習はもちろん、プログラミングや英語、習字、そろばんといった人気の習い事もワンストップで提供する。
そんな付加価値の高いサービスがあれば、必ず保護者の皆さんに選んでもらえるはずだ。

そう確信した私たちは、サービス開発や物件探しに奔走。入念なエリア調査の結果、東京都板橋区に最初の施設をオープンすることを決めました。
それが、現在も運営を続ける民間学童保育「こどもの杜」の始まりです。

「これで勝てる」理想を詰め込んだ学童の誕生と、致命的な見落とし

私たちが目指したのは、既存の学童のイメージを覆すこと。
内装はカフェのようにシックでおしゃれな雰囲気に。預かりは21時まで対応し、ご自宅までの送迎も完備。
習い事も、国語・算数から英語・体操までフルラインナップで揃えました。

2011年9月の会社創業から、わずか3か月後の12月には施設が完成。我ながら、驚くほどスムーズな立ち上がりでした。

こちらが、当時完成したばかりの「こどもの杜」です。
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見た目もサービスも、自分たちが考えうる最高の形を実装できた。ホームページもしっかり作り込んだ。
あとは、お客様が来るのを待つだけだ。

オープンを控えた私たちは、本気でこう思っていました。
「申し込みが殺到して、定員オーバーのクレームが来たらどうしよう?」

今思えば赤面するような、甘すぎる期待です。
当時の私たちは、BtoB領域のマーケティングが専門でした。
裏を返せば、地域に根ざした「店舗への集客」という全く異なるマーケティングについては、完全に素人だったのです。

「とりあえず、チラシでも撒けばすぐにお客さんは集まるだろう」

そんな安易な考えで、新聞折込やポスティングで大量のチラシを配布しました。
しかし、これが悪夢の始まりでした。

鳴らない電話。甘すぎた「チラシを撒けば集まる」という幻想。
結果から言うと、問い合わせは10件程度。
そのうち「4月からの入会を本格的に検討したい」という前向きな方はわずか2~3人で、残りの方は情報収集が目的のようでした。

施設の定員は40名。採算ラインは、最低でも30名。
しかも、保育については素人同然の私たちは、すでに3名もの社員を採用していました。
膨らんでいく家賃と人件費。一方で、お客様はたったの2~3人。

この時、私たち経営陣は、ようやく自分たちが置かれた状況の深刻さを突きつけられました。
数百万の初期投資、雇用した社員たち…。もう後には引けません。

最も致命的だったのは、施設の運営や集客に関する知見が、自分たちに全くなかったことです。問題が起きても、次に何をすべきか、全く見当もつかない。

「自分たちが“できること”(=知見のあるBtoBマーケティング)」ではなく、「自分たちが“やりたいこと”(=未経験の学童運営)」を優先した結果が、あまりにも厳しい現実となって目の前に現れたのです。

迫るタイムリミットと、ファミレスでの緊急会議

年が明けて2012年になっても、状況は好転しませんでした。
私たちは、来る日も来る日もチラシを撒き続けました。周辺のマンションというマンションに、ローラー作戦でポスティングをした記憶があります。

しかし、反応はゼロ。
1月が終わる頃になっても、4月からの入会希望者は2~3人のまま。検討中の方をすべて足しても、5~6人です。これはもう、採算が合わないどころか、事業として続ける意味があるのかを問われるレベルでした。

学童保育の入会検討がピークを迎えるのは、小学校入学を控えた1月~2月。ここを逃せば、次の大きな波は1年後です。
事実上のタイムリミットが、刻一刻と迫っていました。

そして2月。
私たちは、今後の対策を話し合うため、緊急の経営会議を開きました。

今でも鮮明に覚えている、あの都内のファミリーレストラン。ソフトドリンクだけで何時間も粘り、出口の見えない議論を続ける男たち…。
周りのお客様には、さぞかし異様な光景に映っていたことでしょう。

将来の展望なんて、とても描けません。ただ、この絶望的な状況からどうすれば抜け出せるのか。
必死に、本当に必死に考えていました。

そんな八方塞がりの私たちに、一筋の光が差し込みます。
それは、まったく予想もしていなかった形での「転機」でした。

 

…ということで、創業ストーリー第2話はここまでです。

今思い返しても、あの深夜のファミレスでの会議はぞっとします。良くも悪くも、あまりに強烈な思い出です。(笑)

それでは、第三弾もお楽しみに。ここまで読んでくださって、ありがとうございました!

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2013年サマーキャンプでの流しそうめん

 

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