【第3回】実践の原点―失敗を恐れず営業組織とぶつかる実行力―
営業企画の施策は、シンプルにして実行しきったものだけが成果になります。受注が大きく未達だったプロジェクトで、一人50件・チーム250件という電話営業の行動量だけを必達目標に置き、接触率と受注率は結果を問わない設計にしたところ受注が回復しました。実行力を高める4つのポイントを解説します。
営業企画の施策は、立てた時点では価値がありません。営業現場が施策のとおりに動いて、初めて成果になります。
そして実行されるのは、シンプルな施策だけです。 私が受注未達のプロジェクトを立て直したときに置いた目標は、一人一日50件・チーム250件という電話営業の件数だけでした。接触率も受注率も、その期間は結果を問わないと明言しています。
ここでは、その現場で何をしたのかと、施策の実行力を高めるための4つのポイントを整理します。
実行力が問われるのは、どういう場面ですか?
私が以前関わっていた営業プロジェクトでの話です。
それは、飲食店向けのある新サービスを拡販するという内容で、具体的な業務としては取引のない顧客へのアポイントメント獲得、商談、受注までを実行する内容でした。
プロジェクトは5名でスタート。ターゲットとなる顧客候補をリストアップし、営業担当がそれぞれ電話でアプローチし、顧客との接点を持つべく営業活動を開始しました。
数値目標が当然ありましたが、新規の商品ということもあり受注目標に対しては大きく未達の状況。そのプロジェクトは3ヶ月の予定だったのですが、1ヶ月経過した段階で私が関わることになりました。
まず私が行ったのは数字の確認です。 営業活動の行動量、顧客との接触率、接触からの受注率を見ていきました。ここでわかったのは、顧客への接触率と受注率は悪くなかったのですが、行動量が大きく未達成となっていたことです。
現場のリーダーに事情を聞いたところ「飲食店はお昼前後と夕方は忙しいので営業可能な時間が限られる。あと、アポイントをとれた企業には商談をしないといけないので営業活動の時間が制限される」というものでした。
どこで数字が落ちているかを特定する見方については、【第2回】データの舞台裏―営業企画における分析力―で扱っています。
具体的に、どんな目標を設定したのですか?
行動量の不足が原因と見た私は、チーム全員に行動量目標を明示しました。指示した内容は下記のとおりです。
- 一人あたりの電話営業件数は一日50件と設定する
- チームは5人なので、チーム全体で250件とし、必達目標とする
- 個人が営業件数未達成でもチーム全体で達成していればOKとする(他の人が多く営業して不足分を補ってもOK)
- 顧客への接触数、受注数については結果を問わないものとする
- ここまでの営業活動量不足を挽回するため、ここから一週間だけは営業件数を70件とする
- いったんは営業件数だけを追い、受注目標は気にしなくてよいものとする
私がこの施策を掲げ、営業チームに伝達をしたところ、現場からは否定的な意見が多く出ました。 典型的なのは「営業件数を増やすと商談が増えて別作業の時間も増える。その結果営業に手が回らなくなる」といったものでした。
私は意見は意見としてききつつ、まずはやってみることが重要であることを丁寧に説明し、課題が出てきたら都度対応する旨を、営業担当者一人一人に個別にしっかりと説明しました。
この施策が実行されたあと、私は一週間現場に張り付き、毎日数字を見て現場とコミュニケーションを取りました。 チームの営業活動件数を達成したらチームを称賛し、翌日も頑張りましょうと声をかけました。
結果は、営業活動数が担保されたため顧客との接触件数が急増。受注件数も急回復し、目標は3ヶ月目に終わるときは無事に達成されました。
顧客との接触数が増えたことで営業活動数が減ることが当初懸念されましたが、外出先の営業担当者がそれぞれ外から携帯電話などでスキマ時間に営業活動を行ったことで、なんとか目標活動数を確保するという方法で乗り切りました。
(この事例は私が実際に体験したもので、数字などはすこし変えていますが、ほぼ当時の状況を再現しています。)
なぜ施策はシンプルでなければならないのですか?
複数の施策を同時に走らせると、営業現場が何を優先すべきか判断できなくなるからです。
営業活動を増大させ、顧客との商談内容にテコ入れをし、ターゲットリストを見直す。こうした複数の施策を同時に走らせると複雑性が増し、営業現場は混乱することになります。
今回の施策がうまくいったのは、「チームに営業活動量の目標を設定し必ず達成すること」というシンプルかつ明確な目標を立て、その一方で「この間、顧客との接触率と受注率は結果を問わない」という引き算で、営業担当者のやるべきことを明確にしたことにあります。
足し算より引き算です。 何をやるかと同じ重さで、何を今は気にしなくてよいかを明示してください。
そもそもの施策の立て方、課題設定からゴール設定までの手順は【第1回】現場の視点―営業企画の原点となる企画力―にまとめています。
現場の反発には、どう向き合いますか?
施策は、作っただけでは意味がありません。 営業現場に施策の通りに動いてもらわなければ成果は出ません。そして施策は必ず「めんどくさい」「むずかしい」という反応に直面します。
このときに必要なのは、押し通すことでも引っ込めることでもなく、コミュニケーションを密にして、納得してもらったうえで進めることです。
具体的には次の順序です。
- 反対意見は最後まで聞き、内容を記録する
- なぜこの施策が必要なのかを、数字を使って説明する
- 全体への説明だけで終わらせず、担当者一人ひとりに個別に伝える
- 課題が出たら都度対応すると約束し、実際に対応する
- 実行開始から一定期間は毎日数字を見て、達成した日はその場で称賛する
なお、そもそもの説明の組み立て方や、営業会議を使って組織全体に浸透させる方法は【第5回】成功の結節点―関係組織をまとめ上げるコミュニケーション力―で扱っています。
実行力を高める4つのポイントとは?
やることを絞る
課題が多いと、あれもこれも手を出したくなりますが、やるべきことの優先順位を決めて、実行すべきことを絞ることがとても重要です。1つか2つに絞りましょう。
小さな目標から始める
いきなり大きな目標を立てると、そこまでのプロセスが長くなりすぎ、実行する方もあまり気分があがりません。施策は身近な小さな目標から立てるのがおすすめです。 今回の事例でも「施策はまず一週間実行してみて、その後どうするかを考える」という短い期間でまずはスタートしました。そうすることで軌道修正も図りやすくなります。
失敗をくよくよしない
施策は失敗がつきものです。失敗をしたからといって、いちいちくよくよしていては、営業企画は務まりません。失敗は糧にして次に活かすという姿勢で、むしろどんどん失敗していいんだと思ってやりましょう。
完璧主義にならない
施策は7割が予定通りいけばOK、くらいの心持ちでいましょう。 完璧にうまくいくこと自体が稀です。完璧にやらなければ、と思うと施策を実行する気持ちも萎えてしまいます。完璧主義は禁物です。
実行段階でよくある失敗は何ですか?
- 目標を複数同時に置く:現場は優先順位を判断できず、結局どれも中途半端になります
- 説明を全体会議1回で終える:個別に話していない担当者から順に、施策は形骸化します
- 実行後に数字を見ない:達成しているのかどうかが誰にも分からず、翌週には元の動き方に戻ります
- 行動量だけを追い続ける:行動量は立て直しの初期に有効な指標です。接触率と受注率を問わない期間は、あらかじめ区切ってください
- 反対意見を無視して押し切る:短期的には動きますが、次の施策で協力が得られなくなります
行動量と接触率、受注率を日々そのまま見られる状態を作る部分は、ツールの設計に依存します。進め方はCRM導入の流れ:7つの手順と、実際に止まる2つの工程にまとめています。
まとめ
施策は実行してなんぼですし、営業現場を動かしてこその施策です。実行されるのは、追う目標が1つに絞られた、シンプルな施策だけです。
現場から反発が出るのは正常な反応です。個別に説明し、課題が出たら対応し、実行の初期は毎日数字を見て伴走してください。
そして完璧を目指さないこと。7割動けば十分です。
営業データの整備からCRMの設計・運用定着までのご支援はCRM構築・運用をご覧ください。営業企画について課題を感じている方は、お問い合わせよりご相談ください。

執筆者
株式会社トライエッジ代表 中野三四郎
人材派遣会社に新卒入社後、一貫してマーケティング部門に従事。営業戦略の立案、SFA/CRMの企画開発・運用、顧客分析などを行う。その後、M&Aコンサルファームやメーカーの営業企画などを経て、株式会社トライエッジを設立。【著書】「営業は仕組みで9割決まる」

FAQよくあるご質問
Q. 営業現場が反発する施策は、取り下げるべきですか?
必要な施策なら、説明を尽くして実行してください。私が担当したプロジェクトでも、電話営業を一人一日50件に設定した際に現場から否定的な意見が多く出ましたが、意見は受け止めたうえで、まずやってみることの意味を営業担当者一人ひとりに個別に説明し、課題が出たら都度対応すると伝えて実行しました。取り下げる判断が必要なのは、なぜやるのかを説明できない施策のほうです。
Q. 施策はどのくらいシンプルにすべきですか?
同時に追う目標を1つに絞る水準までです。私の事例では、追うのは電話営業の件数だけとし、顧客への接触数と受注数は結果を問わないと明言しました。営業活動を増やし、商談内容にテコ入れし、ターゲットリストも見直す、というように複数の施策を同時に走らせると複雑性が増し、営業現場は混乱します。
Q. 行動量の目標は、個人とチームのどちらに設定しますか?
両方置いたうえで、必達はチームにします。私の事例では一人あたり一日50件、5人のチーム全体で250件を必達とし、個人が未達でもチーム全体で達成していればよいという設計にしました。多く架電できる人が不足分を補えるため、外出や商談で時間が取れない日があっても総量が守られます。
Q. 施策を実行に移した後、営業企画は何をしますか?
現場に張り付いて、毎日数字を見てください。私の事例では施策開始から一週間、現場で毎日の数字を確認し、チームが活動件数を達成した日は称賛し、翌日も頑張りましょうと声をかけました。実行の初期にこの伴走が無いと、数字が落ちた時点で施策は自然消滅します。
Q. 施策の実行力を高めるポイントは何ですか?
4つです。やることを1つか2つに絞ること、まず一週間など小さな期間と目標から始めること、失敗をくよくよせず次に活かすこと、そして完璧主義にならないことです。施策は7割が予定通りいけばよいと考えてください。100%うまくいくこと自体が稀です。
出典・執筆:株式会社トライエッジ/伊能 藍子(CRM 導入・運用支援)。 2024年5月10日公開/2026年8月14日更新。